「東ロボくん」はなぜMARCHを超えたのに東大に入れなかったのか?

人工知能のイメージ図

「東ロボくん」をご存じでしょうか?

その名の通り、東大に合格することを目指して開発された人工知能(AI)です。

なんとMARCHレベルの有名私大には合格できる偏差値に達しましたが、東大の合格は不可能と結論づけ、2016年に開発を終了しました。

東ロボくん

しかし、将棋や囲碁の名人に勝っていしまうAIが、なぜ東大に入ることができないのでしょうか?

数学者の新井紀子さんの著作『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』によると、AIのしくみに起因する根本的な限界があるからです。

東ロボくんが東大になぜ合格できないのかを理解し、メディアに振り回されないAIの知識を身につけましょう!

人工知能、AI、機械学習、Deep Learningの違いは?

人工知能、AI、機械学習、Deep Learningの違い

人工知能やAI、機械学習、Deep Learningなど、巷には似たような用語がちらばっています。

詳しい解説は他の記事に譲るとして、ここではざっくり説明します。お分かりの方はとばして下さい。

まず、「人工知能(Artificial Intelligence)=AI」と考えていいです。厳密には”AI技術”ですが、メディアや世間がいうAIと人工知能は、ほぼ同じ概念です。

人工知能とは非常にざっくりした概念で、実はおじいちゃんやおばあちゃんが生まれた時代(1950年代)くらいから存在します。

その定義は「知的っぽいもの」とぐらいしか言えません。

そして、機械学習は人工知能を実現するためにの手法です。

例えば、猫の耳の形はこんなで…ヒゲが長くて…などと、猫の特徴を人間が定義してプログラムに落とし込むのではなく、大量に猫の画像をコンピュータに見せることで、猫の特徴(特徴量)を評価し、猫かどうかを判別するしくみです。

赤ちゃんがモノを覚えていくのと似たようなしくみですね。

そして、Deep Learningとは機械学習の手法の一種です。

複数の層の処理を重ねて複雑な判断をできるようにする技術で、アイデアは昔からありましたがコンピュータのハード面の性能が上がったことで最近注目を浴びている手法です。

機械学習もDeep Learningも人工知能を実現する手法

AIが東大に入れない一番の理由

AIが東大に入れない一番の理由

東ロボくんなどのAIが絶対に東大に入れない確固たる理由があります。

それは、「AIは意味を理解できない」です。

この壁がある限り、東大に合格することも、人間の知能を超すシンギュラリティが起こることはあり得ません。

AIは意味を理解できない、とはどういうことなのか?

AIはなにか新時代のテクノロジーのような印象がありますが、所詮コンピュータであることを忘れてはいけません。

そして、コンピュータは四則演算しかできません。もっと言えば、足し算と掛け算しかできません。

つまり、数式に表すことができないことは、計算すらできません。

例えば、「太郎は花子が好きだ」はどのようにして数式に変換するのでしょうか?

世の中には数式で置き換えることのできないことばかりです。

さらに、数学の決定的な弱点は「意味」を記述する方法がないことです。意味としては「真・偽」の2つしか表現できません。

現在のコンピュータのしくみでは、意味を理解するなど到底不可能です。

意味が理解できないと、国語や英語の試験で必ず解けない問題が出てきます。

2019年の東ロボくんはセンター試験の英語で200点満点中185点の高得点で偏差値64.1を達成しましたが、東大の2次試験では歯が立ちません。

AIは意味を理解できない

Siriも理解していない?

Siriも理解していない

薄々お気づきだと思いますが、Appleの音声認識応答システム「Siri」もまったく意味を理解していません。

でも、例えば「この近くのおいしいイタリア料理の店は」とSiriに聞くと、GPSを使って近くにある「おいしい」イタリア料理を推薦してくれるのに、意味を理解していないことに疑問を持たれる方もいると思います。

でしたら、「この近くのまずいイタリア料理の店は」や「この近くのイタリア料理以外の店は」と聞いてみて下さい。

意味を理解していれば、こんな変わった質問にも対応できるはずですが、おいしいイタリア料理の時と似たような店を推薦するはずです。

そう、Siriは理解している風を装っていたのです。

Siriに「結婚して!」と言うと「私は結婚するようなタイプじゃないですよ」とか「他の製品にも同じことを言っているのでしょう」と絶妙な返答をしてくれるのは、Siriにユーモアがあるのではなく、中の人(Siriの開発チーム)が手作業で作りこんでいるからなのです。

では、どのようにしてSiriなどのAIは動いているのでしょうか?

Siriは理解している様にふるまっているだけ

常識の壁

常識の壁

人類は正攻法であるコンピュータに”論理”を教え込むことを諦めました。

論理とは、文節に区切って意味を理解させることです。例えば「この/バラ/は/赤い」などです。

論理を諦めた理由のひとつは、”常識の壁”を破れなかったことです。

例えば、「私は先週、岡山と広島に行った」と「私は先週、岡田と広島に行った」の意味はいくら正しく論理的に解釈しても、”常識”がないと区別できません。

他にも「警報機は絶対に分解や改造をしないでください」と「未成年は絶対に飲酒や喫煙をしないでください」の構造は似ていますが、まったく違う構造です。

前者の「警報機」は主語ではなくむしろ目的語ですが、後者の「未成年」は主語です。

この違いを見抜くには、「警報機」は無生物で分解や改造をしないことをAIにあらかじめ教え込まないといけません。

しかし、『不思議の国のアリス』のようまファンタジーならば、無生物がなにかすることはありえるでしょう(警報機は出てこないでしょうが…)。

いくら一生懸命に何百万とある”常識”を教え込んでも、例外がありすぎて役に立ちません。

”常識の壁”が立ちはだかる

すべては統計と確率だった

すべては統計と確率だった

そこで、使われた手法が「統計と確率」です。

Siriや東ロボくん、今流行りのDeep Learningもすべて「統計と確率」がもとになっています。

論理も理解もありませんが、大量に実例を学習させることで、最もそれっぽい答えを統計と確率から割り出すようにしたのです。

例えば「近くのコンビニはどこ?」を「コンビニ 近く どこ」などと検索して、一番確からしい検索結果を答えます。

東ロボくんは150億文の英文を暗記して、センター英語に臨みました。

なにも理解していませんが、その物量作戦が「結構当たる」のです。

SiriもIBMのワトソンもGoogle翻訳も、すべて大量のデータから似ている文を探し、もっとも多かった答えを返しています。

しかし、あくまで「統計と確率」です。サイコロを6回ふっても1~6の数字が1回ずつ出ないように、統計データが正規分布に完全に一致しないように、必ず間違えます。

特にデータの量が少ない上の「イタリア料理」のような質問はニガテです。

AIは統計処理をして確からしい答えを選んでいるだけ

東ロボくんの戦績

東ロボくんの成績

これが東ロボくんが2016年の開発終了までの成績です。

確実に偏差値は上がり、特に東大模試の数学の偏差値は申し分ありません。

しかし、多岐にわたる種類の出題がされるセンター試験では、偏差値が57台と苦戦しました。

東大の2次試験に進むには、足切りの85%を超える必要がありますが、東ロボくんは55%(525/950)しか取れておりません。

しかし、偏差値57.1というのは、全国の国公立大学172校のうち23大学の30学部53学科で合格可能性80%、私立大学584校のうち512大学の1343学部2933学科で合格可能性80%です。

中にはMARCH(明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学)や関関同立(関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学)の難関私立大学の一部の学科も含まれます。

つまり、意味を理解せずともMARCHなどの難関私立に合格する人と同じレベルまでAIは成長したのです。

しかし、東大を含めるそれ以上は、意味を理解しないとまったく歯が立たないので、今のAIが東大に合格することはあり得ないわけです。

東ロボくんはMARCH合格レベルに達した

東ロボくんにスパコンは要らない

スパコン「京」

東ロボくんの能力を上げるには、ハードウェアの性能が不十分なのではと思う方もいるでしょう。

すでに運用を中止し「富岳」に引き継ぎましたが、1秒間に1京回演算処理を行える「京」のようなスーパーコンピュータ(スパコン)を使えば、東ロボくんの成績も上がらないのでしょうか?

結論から言えば、「使い道がわからない」そうです。

「そこそこのサーバーを使って5分で解けない問題は、スパコンを使っても、地球滅亡の日まで解けない」

どういうことかと言うと、数学のこんな簡単な問題も地球滅亡の日まで解けません。

「平面上に四角形がある。各頂点からの距離の和が最小になる点を求めよ。」

四角形

人間ならば、数学がニガテな人も「対角線の交点」と勘でわかるかもしれませんし、いわんや理系においてをや。

コンピュータは意味を理解しないので、しらみつぶしに計算しようとします。

実際に宇宙が始まってから現在までよりも長い時間がかかることが分かりました。

このような数式処理に限らず、英語や国語などの自然言語処理では、そもそも何を計算すればよいのかがわからない問題が山積みです。

たとえ量子コンピュータが完成しても、いくら英単語を覚えても文法を理解しないと英語が解けないのと同じで、コンピュータに大革命が起こらない限り、解ける日は来ません。

スパコンでも歯が立たない

AIは人類を超えるのか?

AIは人類を超えれない

先ほど、東ロボくんはMARCHレベルには合格できる実力があるとお話しました。

では、よほど賢くならないと、現在のAIに知性で抜かれているのでしょうか?

答えは、もちろん「いいえ」です。

東ロボくんが偏差値57.1を獲得できたのは、複雑な問題もうまく統計に落とし込む数値的な手法の精度を上げただけで、意味を少しでも理解したわけではありません。

意味を理解していない以上、知性は獲得したと言い難いです。

しかし、安心はできません。

逆に意味を理解せずともできる仕事はAIに奪われる可能性が高いからです。

私たち人間にしかできないことを考え、実行に移していくことが、私たちが来るAI社会を生き延びる唯一の道でしょう。

最近、医療分野のガンなどの画像診断で、AIが医師の精度を上回ったという報道を見かけますが、AIが「意味を理解していない」ことを私たちが理解していれば、いくらAIが発見の精度を上げても医師抜きで治療の判別を下される未来は来ないことがお分かり頂けると思います。

AIは人類を超えられない


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