『ヤバイ集中力』を手に入れる科学が証明した驚くべき「物語」の力とは?

「ヤバい集中力」のサムネイル

前編「『ヤバイ集中力』を手に入れる科学が証明した驚くべき「儀式」の力とは?」では、儀式を使った集中力を上げるメソッドをご紹介しました。

そちらは、人間の楽して生きたい「本能」(著書では獣と呼ばれています)を「儀式」の力で抑え、獣を手なずける方法でした。

後編である本記事では、もう一つの強力な手法である「物語」を使った非常に面白い集中力の上げ方を解説したいと思います。

こちらは、人間の論理的だけど非力でもろい「理性」(著書では調教師と呼ばれています)を「物語」でパワーアップする方法です。

獣をまだ手なずけられていない方は、まず前編からお読み下さい。

古代から続く物語のパワー

神話、伝説、喜劇、古代から「物語」は人類にとって大きな役割を果たしてきました。

カラハリ砂漠で今も原始的な暮らしを送るサン人を調べた研究によれば、彼らは毎夜、仲間たちと焚き火を囲み、就寝まで延々と語り合うようです。

その内容は他人のうわさ話から金銭トラブルの話題まで多岐にわたりますが、その中で群を抜いて割合が多かったのは「物語」でした。

「リア王」のような暴力に満ちた悲劇や「ボートの三人男」のようなナンセンス喜劇といったあらゆるタイプのエピソードを、サン人たちはすべての会話時間の81%も費やして語り合うのです。

テクノロジーを手にした現代人でも、小説や映画、ドラマなど物語に多くのリソースを費やしていることは明白です。

では、人間がいつの時代でも物語に傾倒するのはなぜでしょうか?

それは、物語にアイデンティティの構築機能があるからです。

例えば、代表的なのは「聖書」です。

西洋の人々がキリスト教の「聖書」のストーリーを心の支えにしてきたのはご存知のとおりで、ある人は「創世記」に自らの起源を求めて安心感を抱き、またある人はキリストの物語によって「自分はどう行動すべきなのか?」の指針を手に入れました。

イスラム教徒はコーランという物語を信じ、1日に5回の礼拝を毎日行い、豚肉を食べません。

仏教徒は苦の輪廻から解脱するために座禅などの厳しい修行をくり返します。

つまり、ある宗教を信じることで「私は誰か?」「私は何をすればいいのか?」といったアイデンティティーを得ることができるのです。

アイデンティティーは自身の生きる価値に相当してきますから、生存のために人間はいつの世でも物語を求めてきたわけであり、いったん構築されたアイデンティティーは生存のために守ろうとする働きがあります。

逆に考えれば、アイデンティティーを得ると、豚肉を食べないくらいの意思力、礼拝を続ける継続力、苦しい修行をやり通すほどの集中力を、言ってしまえばいとも簡単に得ることができるのです。

本記事の主旨はそこにあり、物語によってアイデンティティーを意図的に作ることで集中力を上げるというのが根本的なアイデアです。

「あなたは読書家です」

では、物語から来るアイデンティティーが日常で具体的にどのように活きるのか、例を示しましょう。

「あなたは仕事に必要な本を読み込んでいましたが、内容が難しいせいで、少しでも気を抜くと集中力が切れそうになってしまいます。しかし、そのたびにあなたは『がんばって読み続けないと!』と気合を入れ直し、なんとか最後まで本を読みとおすことができました」

もちろん、これは素晴らしい成果です。いったんそれた集中力を何度も戻す努力をくり返せば、あなたの集中力は確実に伸びるでしょう。

しかし、この考え方では集中力が切れる度に強靭な精神力が必要となり、長期的には失敗に終わる可能性が高くなります。

一方、ここであなたが「私は根本的に読書家なのだ」と自己を定義していた場合は、事態が大きく変わります。

もし集中がつづかなそうな状況に襲われたとしても、反射的に「読書家」という自己像、アイデンティティーを守ろうとする意識が働き、本の内容に意識を戻す確率が自然と上がるからです。

つまり、本の内容に集中できず「本を読みたくない自分」vs. 「読書家である自分」の2つに切り裂かれたとき、自己のアイデンティティーを守るために読書家の方を通すしかなく、集中力を戻すことができるのです。

他にも、ランニングに集中したければ「私はランナー」と自分を定義し、仕事に集中したければ「私は仕事をやり抜くタイプの人間なのだ」と自分を定義するのです。

  1. 集中力アップに役立つ新たな「物語」を作る
  2. 「物語」に沿った行動を続ける

まとめると、この2ステップが根幹となるわけですが、「物語」を作れといきなり言われてもよくわからないですよね。

ここで前編で解説した「儀式」を応用することも可能です。

たとえば、特定の「儀式」を毎日くり返せば「自分は集中力を備えた生き物なのだ」という物語を脳の深部にインストールすることができます。

ただし、「儀式」の効果が出るまでには時間がかかるため、途中で気持ちが萎えてしまう人も少なくないでしょう。

そこで、次章では新たな「物語」を手軽に時短で作りだす手法を簡単な順に5つ紹介したいと思います。

レベル1 ステレオタイピング

  • 有能な人を思い描くだけでも人間のパフォーマンスはアップするという現象
  • タスクに取りかかる前に15秒〜30秒ほど時間を取り、誰か有能な人物を思い描く

一番手軽な方法は「ステレオタイピング」であり、有能な人を思い描くだけでも人間のパフォーマンスはアップするという現象を指します。

たとエバ、ザルツブルグ大学の研究では、前もって「優秀な大学教授」のイメージを頭にすり込まれた被験者は、そうでないグループよりも自分の知識への自信が上昇し、その結果として集中力が高まり、一般常識テストの結果が良くなりました(The Relation Between Perception and Behavior, or How to Win a Game of Trivial Pursuit(1998))。

他にも一流アスリートのイメージを思い浮かべた被験者は運動テストの成績が上がり、このケースでも自信の上昇による集中力アップがパフォーマンスの向上につながったようです(Think of Capable Others and You Can Make It! Self-Efficacy Mediates the Effect of Stereotype Activation on Behavior(2009))。

同じような研究は非常に多く、たとえばチューリングのような天才数学者をイメージすれば実際に数学テストの成績が上がりますし、ガンジーのような博愛主義者を頭に浮かべれば他人への親切な行動が増えることがわかっています(The Hillary Clinton effect: When the same role model inspires or fails to inspire improved performance under stereotype threat(2011))。

ステレオタイピングには、あなたが作る物語に彩りを添える働きがあります。

「私は集中力を備えた人間だ」という物語をインストールするのは孤独で退屈な作業ですが、そこでヨーダやガンダルフのように個性的なキャラがいてくればあなたの物語は鮮明さを増すでしょう。

もしプレゼンの集中力を上げたければ事前にジョブズの姿を想像してもいいですし、仕事をすばやく終わらしたければ身近なデキる人を思い出すのもありです。

タスクに取りかかる前に15秒〜30秒ほど時間を取り、誰か有能な人物を思い描いてください。

レベル2 ジョブ・チェンジング

  • 問題のタスクに対して自分に新たな「肩書き」をつけるだけ
  • 別の角度から光を当てて、あくまで実態に即した「肩書き」を考える

ジョブ・チェンジングは仕事のモチベーションを高めるために、組織心理学の世界で考案された技法です。

やり方は非常にシンプルで、問題のタスクに対して自分に新たな「肩書き」をつけるだけです。

子供だましのように思われたかもしれませんが、実はこれがバカにできない効果をもっています。

アメリカの病院を対象にしたある研究では、仕事へのやる気に欠ける清掃スタッフへ次の肩書きを与えました。

「清掃の仕事は治療のプロセスのひとつであり、あなたたちは『病院のアンバサダー』なのです」

すると、スタッフのモチベーションは一夜にして激変し、みんな以前より清掃に集中して取り組み始め、かつては夜中まで汚れていた床やトイレが夕方にはピカピカになっていたのです(Jobs, Careers, and Callings: People’s Relations to Their Work(1997))。

ジョブ・チェンジングの効果を調べたレビュー論文の中で、イエール大学の研究チームはこうコメントしています(Job Crafting and Cultivating Positive Meaning and Identity in Work(2013))。

「新たな『肩書き』は、単にマインドセットを変える以上の効果を持っている。新たな肩書きによって仕事へのアプローチが変わり、結果として集中力にも変化が出るからだ」

自分のことを「病院のアンバサダー」だととらえ直せば、院内の清掃は「ただの業務」から「患者を癒す治療のひとつ」に変わり、そのおかげでスタッフに大きな責任感が生まれ仕事への集中力も上がったわけです。

ただし、ジョブ・チェンジングを行う際は好きな肩書きをなんでも名乗っていい訳ではなく、実態に即した物をつけねばならない点に注意してください。

イラストが描けないのにイラストレーターを名乗っても無意味なように、仕事を集中してこなせないのに「ハイパフォーマー」を標榜しても効果がありません。

先の実験が清掃員の仕事に別の角度から光を当てたように、正しく肩書きをつけるには事実ベースを心がける必要があります

レベル3 指示的セルフトーク

  • スポーツ界ではすでに認められている「ひとりごと」を使って集中力アップを狙う技法
  • あくまで作業中にすべきことを言葉に変えるのがコツ

難易度3は、昔からスポーツの世界で集中力アップのために使われてきたテクニックである「指示的セルフトーク」です。

その効果については質の高いエビデンスがあり、32件の先行研究をまとめた2011年のメタ分析でも、パフォーマンスの向上に対して「d+=0.43」の効果量が認められており(Self-Talk and Sports Performance: A Meta-Analysis(2011))、これは劇的な効果ではないものの実生活で使う分には十分に意味がある数値です。

指示的セルフトークとは、名前のとおり「ひとりごと」を使って集中力アップを狙う技法です。

例えば、筋トレでスクワットの集中力を高めたい場合には、脳内で次のようにつぶやきます。

「バーベルは肩にしっかり載ったか? ヒザの角度に気をつけろ! 太ももの筋肉をちゃんと意識するんだ!」

集中したい動作をあらためて言葉にして、自分に質問や指示を投げかけるわけです。

  • 勉強に使う場合「いま自分の勉強が止まったのは、どこがわからなくたなったからだ? 問題を解く違うアプローチを考えてみろ! どうしてもわからないままなら次の問題に移れ!」
  • 仕事に使う場合「この書類をもっとラクにこなすために、他に使えそうなリソースを探せないか? 取り組んでいる情報のなかで本当に重要なものを見抜くように努力するんだ!」

ここで重要なのは、「俺なら大丈夫!」や「今日は最高の調子だ!」のように自分を持ち上げるようなセルフトークは使わないことです。

このタイプのひとりごとは「意欲的セルフトーク」と呼ばれ、一時的に集中力を高める働きはあるものの、仕事や勉強といった複雑なタスクには向きません。

指示的セルフトークを使うときは、あくまで作業中にすべきことを言葉に変えるのがコツです。

「この問題のポイントは?」「解放の手順は?」のように客観的な質問を使ってもいいですし、集中力が落ちたと思ったら「もう1問だけ取り組んでみろ!」と具体的に自分をはげますのも有効ですし、「あと5分だけ続けよう!」と前編の「『ヤバイ集中力』を手に入れる科学が証明した驚くべき「儀式」の力とは?」で解説した「5のルール」と組み合わせてもいいでしょう。

レベル4  VIA SMART

  • 「VIA テスト」と「SMART」を組み合わせた集中力アップのテクニック
  • 自分が生まれ持つ「強み」を活かす手法で、「VIA SMART」を使った被験者は最終的なゴールの達成度が2〜3倍にはね上がった

「VIA SMART」は、ノースセントラル大学の実験で効果が確認された集中力アップのテクニックです(An Investigation of the Efficacy of the Using Your Signature Strengths in a New Way to Enhance Strengths Use in Work Settings(2016))。

自分が生まれ持つ「強み」を活かすのがこの手法のポイントで「VIA SMART」を使った被験者はひとしく集中力が上がり、なんと最終的なゴールの達成度が2〜3倍にはね上がりました。

STEP1 VIAテストで「強み」を選ぶ

まずはこちらの「VIA」のサイトにアクセスし、無料で診断テストを行ってください。

「VIA」はポジティブ心理学のデータにもとづいて作られたテストで、あなたが生まれ持つ「強み」を無料で診断してくれます。

すべての質問に答えると「好奇心」や「思考力」など、あなたが持つ「強み」のトップ5が表示されるので、その中から直感的にもっとも気になったものをひとつだけ選んでください。

STEP2 「強み」を活かす方法を考える

STEP1で選んだ「強み」を毎日の目標や作業に活かす方法を考えてください。例えば、

  • 「創造性」という強みを「勉強の集中」に活かしたいなら、新しい学習法を考えて実践してみる。
  • 「批判的思考力」という強みを「仕事の集中」に活かしたいなら、いまの働き方に問題はないかを考えて改善してみる。
  • 「好奇心」という強みを「エクササイズの集中」に活かしたいなら、これまでしたことがない運動にトライする。

STEP3 SMARTで計画を立てる

「強み」を活かす方法を考えたら、最後は「SMART」を使って実践の計画を立ててください。

「SMART」とは具体的なプランを決めたい時に使うフレームワークのひとつで、以下の頭文字で構成されています。

  • Specific(具体的)=できるだけ具体的に明確な目標に落とし込む
  • Measurable(計測可能)=目標の達成度が数字で把握できるようにする
  • Achievable(達成可能)=夢のような目標ではなく、現実に達成できそうなレベルを選ぶ
  • Related(関連性)=その計画が重要な仕事の内容に関係があるかどうかを確認する
  • Time-bound(締め切りが明確)=いつまでに目標を達成するかを決める

このガイドラインに沿って、あなたの「強み」を活かすための具体的なプランを定めてください。

たとえば「向学心」という強みを勉強に集中するために使いたい場合は、次のようなプランが考えられます。

  • 具体的=「向学心」を活かすために統計学の教科書を勉強する
  • 計測可能=「1日に3ページずつ進めていく」
  • 達成可能=「3ページなら6ヶ月で達成できる」
  • 関連性=「統計学を学べばいまの仕事の問題点があぶり出せるはず」
  • 締め切りが明確=「今年の5月までに一冊を終える」

不得意なことに手を出して失敗をくり返すのではなく、「VIA SMART」を用いて得意な作業を続け、あなたの「強み」を活かせる環境に変化させて下さい。

レベル5 ピアプレッシャー

  • できる人間に近づけばあなたもできる人間になり、周囲の生産性が低ければあなたの生産性も下がる(=環境が非常に大事)
  • ピアプレッシャーを正しくつかうためのルールは「集中力が高い人たちのなかにまぎれこむ」だけ

新たな「物語」を作るにあたり、最難にして最大の効果を持つのが「ピアプレッシャー」です。

直訳すれば「仲間からの圧力」のことで、あなたの友人や職場の同僚などから感じる心理的な圧迫感を意味します。

一見悪いことのようですが、使い方さえ間違えなければ、ピアプレッシャーは最強のパフォーマンス向上ツールとして機能してくれます。

ハーバード大学の2004 年の論文を見てみましょう(The risky business of hiring stars(2004))。

研究チームはまず複数の投資アナリストたちのデータを調べ、そのなかでもトップの成績を叩き出していた1052人を厳選しました。当然、自分のことをハイパフォーマーだと自認している人ばかりです。

続いて研究チームは、投資アナリストのなかから、他の企業に移った人や自分で会社を立ち上げた人をピックアップし、彼らがいままでと違うメンバーと仕事を始めた後でも同じ成績を維持できているかどうかを調べました。

その結果は、驚くべきものでした。

働く環境が変わった投資アナリストのうち、以前と同じレベルの成果を上げていたのはおよそ50%で、残りの半分は逆に成績が低下し、調査開始から5年が過ぎてももとのパフォーマンスを取り戻すことはできなかったのです。

この傾向は、アナリストの給料や個人の体調といった複数の要素を調整しても確認されました。

同じような現象について調べたケースは他にも多く、約2000人のオフィスワーカーを対象にした別のハーバード研究でも「平均して私たちの生産性の10%以上は隣の席に座る人間の質で決まる」と結論づけています(The Corporate Learning Factbook 2014: Benchmarks, Trends, and Analysis of the U.S. Training Market(2014))。

要するに、できる人間に近づけばあなたもできる人間になり、周囲の生産性が低ければあなたの生産性も下がってしまうわけです。

ピアプレッシャーを正しく使うためのルールはこの一つだけです、「集中力が高い人たちのなかにまぎれこむ

この前提さえ守れば、何をしても効果は得られます。

  • 熱心に勉強する人たちが集うカフェに行く
  • 同じ目標を持つ人たちがしのぎを削るコミュニティに参加する
  • 会社内のハイパフォーマーと友人になる

どの手法でもほど良いプレッシャーが生まれ、確実に集中力はアップするでしょう。

最後に

いかがでしたでしょうか。

集中力につながる「物語」を自分で作り、それが自身のアイデンティティーとなるため、アイデンティティーを守ろうとする人間は集中力が自然と上がるという仕組みでしたね。

5つの具体的なテクニックは簡単ですし、是非実践していただきたいです。

レベル1のステレオタイピングだけで成績が上がるなら使わない手はないですし、就活生は「VIA テスト」を使って自己分析を深めるといいですし、ピアプレッシャーの効力を考えると良い大学に入ることや活気のある会社で働くことが重要になってくることがわかりますね。

前編の「儀式」の力と本編の「物語」の力を組み合わせて、集中力をアップさせてください。













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